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大阪地方裁判所 平成12年(レ)156号 判決

控訴人

トモエタクシー株式会社

被控訴人

砂田由美子

ほか一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

1(一)  控訴人は、被控訴人砂田由美子に対し、金一五万七七〇一円及びこれに対する平成一一年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被控訴人砂田由美子の控訴人に対するその余の請求を棄却する。

2(一)  被控訴人砂田崇雄は、控訴人に対し、金六万五九八五円及びこれに対する平成一一年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  控訴人の被控訴人砂田崇雄に対するその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを一〇分し、その七を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

4  この判決は、1の(一)、2の(一)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立て

原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人砂田由美子の控訴人に対する請求を棄却する。

2  被控訴人砂田崇雄は、控訴人に対し、二一万九九五〇円及びこれに対する平成一一年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

本件は、控訴人所有、訴外藤垣秀彦(以下「訴外藤垣」という。)運転の普通乗用自動車と被控訴人砂田由美子(以下「被控訴人由美子」という。)所有、被控訴人砂田崇雄(以下「被控訴人崇雄」という。)運転の普通乗用自動車が接触した事故につき、控訴人が、被控訴人崇雄に対し、民法七〇九条に基づき修理費及び休車損の各損害の賠償を、被控訴人由美子が、訴外藤垣の使用者である控訴人に対し、民法七一五条に基づき修理費の賠償を、それぞれ請求した事案である。

1  争いのない事実

(一)  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(1) 日時 平成一一年一〇月二一日午後八時ころ

(2) 場所 大阪市東淀川区大道南一丁目一四番四一号先交差点付近(以下「本件事故現場」という。)

(3) 事故車両一 普通乗用自動車(登録番号・大阪五五く一六六五、以下「控訴人車」という。)

運転者 訴外藤垣

所有者 控訴人

(4) 事故車両二 普通乗用自動車(登録番号・大阪五〇〇な七一四六、以下「被控訴人車」という。)

運転者 被控訴人崇雄

所有者 被控訴人由美子

(5) 事故態様 別紙図面記載の北東から南西にのびる道路(以下「本件道路」という。)と、本件道路から北西にのびる道路(以下「北西道路」という。)及び西にのびる道路とが交わる変形交差点(以下「本件交差点」という。)西角付近において、北西道路から本件道路へ右折した控訴人車の左フロントフェンダーから左フロントドア部分と、本件道路を北東から南西へ向かって進行した被控訴人車の右フロントバンパー角、右フロントフェンダーから右フロントドア部分が接触した。

(二)  訴外藤垣は、控訴人の従業員であり、本件事故当時、控訴人の業務に従事していた。

(三)  控訴人の損害

本件事故により、控訴人は、控訴人車の修理費一八万七九五〇円及び休車損三万二〇〇〇円の合計二一万九九五〇円の損害を被った。

(四)  被控訴人由美子の損害

本件事故により、被控訴人由美子は、被控訴人車の修理費二二万五二八八円の損害を被った。

2  争点(本件事故態様・過失割合)

(控訴人の主張)

訴外藤垣は、控訴人車を運転し、本件交差点を右折するに当たり、まず、北西道路の一時停止線手前で一時停止し、さらに、本件道路と交差する手前まで徐行しながら進行した後、再び一時停止して左右の安全を確認し、左方から進行してくる車両がないことを確認した上で本件道路へ右折した。そのとき、被控訴人車が、本件道路をヘッドライトを点灯させずにスモールライトのみ点灯させて、約五〇ないし六〇km/hの速度で進行してきたため、控訴人車と被控訴人車が接触した。

本件事故は、被控訴人崇雄が、ヘッドライトを点灯させずに、制限速度を超過する約五〇ないし六〇km/hの速度で、かつ、前方不注視のまま本件道路を進行してきた過失により発生したものである。

他方、本件交差点の形状からすれば、訴外藤垣が、控訴人車を運転して、本件交差点の中心地点の直近内側を進行することは困難であり、また、本件交差点の中心の直近内側を進行した場合と比較して、被控訴人車の進路を妨害した程度が大きいとはいえないから、訴外藤垣にはほとんど過失が存しない。

(被控訴人らの主張)

被控訴人崇雄は、被控訴人車を運転し、本件道路をヘッドライトを点灯させて進行していたところ、控訴人車が、北西道路から、本件交差点を小回り右折して、本件道路に進入してきたため、被控訴人車と控訴人車が接触した。

本件事故は、訴外藤垣が、本件交差点の手前で一時停止して左方の安全を確認することなく、かつ、小回り右折して本件道路を進行していた被控訴人車の進路を妨害した過失により発生したものであり、他方、被控訴人崇雄にはほとんど過失が存しない。

第三争点に対する当裁判所の判断

1  本件事故態様・過失割合

証拠(甲一の一ないし五、二の三、三、四の一、二、乙一、二、原審における証人藤垣、原審における被控訴人崇雄及び原審における被控訴人由美子)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件事故現場の概況

現場は、別紙図面記載のとおり、淀川の堰堤沿いに北東から南西にのびている道路(本件道路)と、本件道路から北西にのびる道路(北西道路)及び西にのびる道路とが交わる、信号機の設置されていない変形交差点(本件交差点)西角付近である。本件交差点南側中央付近には、本件道路と北西道路の見通しを良くするためにミラーが設置されている。本件道路は、淀川の堰堤沿いにのびている道路であり、別紙図面記載のとおり、本件事故現場付近ではやや曲線を描き、本件交差点の北東側の幅員は約四m九〇cm、南西側の幅員は約三m九〇cmとなっている。また、制限速度は三〇km/hで、街路灯は設置されていない。北西道路は、本件交差点入口手前に一時停止の規制がある幅員約五m七〇cmの道路であり、本件交差点内において本件道路と交差する地点の幅員は約一五m二〇cmである。

(二)  本件事故態様

(1) 訴外藤垣は、控訴人車を運転して、北西道路から本件道路へ右折しようと本件交差点内に進行したが、本件道路に進入する際、一時停止して左方の安全を十分に確認しなかったため、本件道路を北東から南西へ向かって進行してきた被控訴人車の存在に気づかないまま、本件道路へ右折した。そして、訴外藤垣は、控訴人車を運転して、別紙図面記載〈1〉地点付近まで進行したとき、控訴人車の左フロントフェンダーから左フロントドア部分が、本件交差点内の別紙図面記載〈ア〉地点付近まで進行していた被控訴人車の右フロントバンパー角、右フロントフェンダーから右フロントドア部分に接触して初めて、被控訴人車に気がついた。

被控訴人崇雄は、被控訴人車を運転して、本件道路を北東から南西へ向かい、ヘッドライトを点灯させて、約四〇ないし五〇km/hで進行していた。被控訴人崇雄は、前方に十分な注意を払っていなかったため、本件交差点内に進行して初めて、被控訴人車右前方に、北西道路から本件道路へ右折しようとしている控訴人車を発見し、急ブレーキを踏んだ上、ハンドルを左に切ったが間に合わず、別紙図面記載〈ア〉地点付近において、被控訴人車の右フロントバンパー角、右フロントフェンダーから右フロントドア部分が、別紙図面記載〈1〉地点付近に進行していた控訴人車の左フロントフェンダーから左フロントドア部分に接触した。

(2) これに対し、控訴人は、訴外藤垣は本件道路へ右折する際、一時停止して左方の安全を確認した上で本件道路へ進入したが、被控訴人車がヘッドライトを点灯させずに約五〇ないし六〇km/hで進行してきたため本件事故が発生した旨主張し、訴外藤垣も上記主張に沿う供述をする。

しかしながら、訴外藤垣の上記供述は、被控訴人車と接触するまで被控訴人車が見えなかったから被控訴人車はヘッドライトを点灯させずに約五〇ないし六〇km/hで進行していたはずであるという推測に基づくものである上、他にこれを裏付ける客観的な証拠もない。

また、本件事故は平成一一年一〇月二一日午後八時ころ発生したものであるところ、本件事故現場付近には街路灯はなく、その他特に照明となるものは見当たらないことなどから、本件事故当時、現場付近は相当暗かったと推測できること、本件道路は淀川の堰堤沿いにのびているため直線路ではないこと、本件事故現場付近における本件道路の幅員は約三m九〇cmないし約四m九〇cmであり、それ程広くないことなどからすれば、被控訴人崇雄が、被控訴人車のヘッドライトを点灯させずにスモールライトのみ点灯させて、約五〇ないし六〇km/hもの速度で本件道路を進行したとは考えにくい。

したがって、本件事故当時、被控訴人崇雄は、被控訴人車のヘッドライトを点灯させて進行していたと認めるのが合理的であり、控訴人の主張は採用できない。

他方、証拠(乙二及び原審における証人藤垣)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、控訴人車の屋根の上には黄色いあんどんが灯火していたこと及び控訴人車もヘッドライトを点灯させていたことが認められ、したがって、被控訴人崇雄が前方に十分な注意を払っていれば、より手前で控訴人車を発見し得たことが推認できる。そうすると、被控訴人崇雄は、本件交差点内に進行して初めて控訴人車を発見したのであるから、前方に十分な注意を払っていなかったというべきである。

(三)  過失割合

以上認定の事故態様に照らせば、訴外藤垣には、北西道路から本件道路へ右折するに際し、本件道路と交差する手前で一時停止の上、左方の安全を確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、左方の安全を十分に確認しないまま本件道路へ右折した過失がある。

他方、被控訴人崇雄には、前方に十分な注意を払うべき注意義務に加えて、前記(二)認定のとおり、被控訴人崇雄は、控訴人車を発見して急ブレーキを踏んだ上、ハンドルを左に切ったが間に合わずに控訴人車と接触したことからすれば、被控訴人崇雄には、本件交差点に進入するに際し、北西道路から車両が右折して進入することがあることを予測して、速度を調節して安全な方法で進行すべき注意義務があったというべきである。しかるに、被控訴人崇雄は、これらの注意義務を怠り、前方に十分な注意を払わないまま、速度を調節せずに制限速度を超過して進行した過失がある。

なお、被控訴人らは、訴外藤垣が、控訴人車を運転して、北西道路から本件交差点へ小回り右折した過失がある旨主張するが、本件事故は、右折車である控訴人車と、控訴人車の左方から直進してきた被控訴人車との接触事故であり、控訴人車が、本件交差点の中心の直近内側を右折した場合と比べて、小回り右折したことにより、本件事故発生の危険性が増大したとは認められず、したがって、訴外藤垣が、本件交差点を小回り右折した点を注意義務違反と解することは相当でない。

そして、本件事故は、上記訴外藤垣、被控訴人崇雄の双方の過失が競合して発生したものであるが、訴外藤垣が、右折して本件道路に進入するに際し、一時停止の上、左方の安全を十分に確認していれば、被控訴人車を発見して、その通過を待つことにより、本件事故を容易に回避し得たのであるから、訴外藤垣の過失は大きく、したがって、本件事故の過失割合は、訴外藤垣七割に対し、被控訴人崇雄三割と認めるのが相当である。

2  過失相殺後の損害

(一)  控訴人の過失相殺後の損害 六万五九八五円

前記争いのない事実(三)のとおり、控訴人の損害は二一万九九五〇円であるところ、前記認定の過失割合に従って、七割の過失相殺を行うと、過失相殺後の控訴人の損害は、六万五九八五円となる。

(二)  被控訴人由美子の過失相殺後の損害

前記争いのない事実(四)のとおり、被控訴人由美子の損害は二二万五二八八円であるところ、前記認定の過失割合に従って、三割の過失相殺を行うと、過失相殺後の被控訴人由美子の損害は、一五万七七〇一円となる。

第四結論

以上のとおり、控訴人の請求は、被控訴人崇雄に対し、六万五九八五円及びこれに対する本件事故日である平成一一年一〇月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容するべく、その余は失当であるからこれを棄却するべきであり、被控訴人由美子の請求は、控訴人に対し、一五万七七〇一円及びこれに対する本件事故日である平成一一年一〇月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容するべく、その余は失当であるからこれを棄却するべきである。

よって、原判決を変更し、主文のとおりに判決する。

(裁判官 中路義彦 齋藤清文 池田知史)

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